劇的に認知症の症状が改善した90代女性

2025.07.28

当院では名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦先生の提唱するコウノメソッドによる認知症診療を行っています。一般的に認知症は進行性で治らないというのが常識で、薬も進行をわずかに遅らせる程度しか期待できないとされており、このため認知症診療に消極的な医師も少なくありません。

しかしコウノメソッドでは時に劇的に改善することがあります。最近経験したケースですが、色んな示唆に富むと思われるためここにご紹介します。

 

この女性は若い頃からヒステリックに怒ることがあり、友人も少ないものの、整理整頓はできていたようです。同居のお嫁さんをいびるために在宅生活が続けられず施設入所となりました。自宅では幻視、幻聴、大声で「助けて」と叫ぶ、一過性の意識消失発作あり。施設入所後は日中ウトウトと傾眠、夜になると騒いだり廊下を徘徊する、スタッフに対しての暴言や暴行もあり、当院に診察依頼がありました。

診察では改定長谷川式知能テスト7点。コウノメソッドによるレビースコア7点、ピックスコア3点で、当院の診断はレビー・ピック複合(LPC)症候群としました。昼夜逆転、夜間せん妄に対して処方はリバスチグミンパッチ1.125mg(最小4.5mgを4分の1にカット)を朝貼って夕方に剥がす、抑肝散加陳皮半夏3.75g夕食後、トラゾドン25mg夕食後、サプリメントのフェルガードFを1日2包朝夕としました。

治療の効果はすぐに認められ、パッチを貼った初日から日中は覚醒して会話ができるようになり、内服4日目には表情が穏やかになり、暴言もなく、食事も自分で全量摂取するようになったと報告がありました。夜間も良眠され、昼夜逆転が見事に改善しました。2週間後に当院にCT検査のため来院され、ご家族から「劇的に良くなっている。元の状態に戻ったようだ。昔の性格の悪いところも出てきた。少しぼーっとしていて丁度良いのに」との評価を頂きました。

 

CT画像を見ると海馬の萎縮や側脳室の拡大が目立ち、よくあるアルツハイマー型認知症で矛盾しません。軽度の虚血もありそうです。一方で前頭側頭型認知症(ピック病)を示唆するような所見は認めませんでした。この方の本当の病名は何でしょう?私はおそらくアルツハイマーで、元々に発達障害のアスペルガー症候群(AS)があったのではないかと考えました。ASの方がアルツハイマーになるとあたかもピック病のような症状を呈するからです。

 

コウノメソッドは本当の診断(解剖して初めてわかる病理診断)を重視しません。あくまでも困っている症状からレビーらしいか、ピックらしいかを評価して治療のための診断(今回の場合はレビー・ピック複合症候群)を下し、それに合った薬やサプリメントを処方します。そして常識外と思われるような認知症薬の少量投与をします。それは薬剤過敏の方や高齢者に副作用を出さないためで、その方に副作用が出ずに症状が改善する量をさじ加減しながら慎重に探していきます。今回はたまたまこの方の治療の鍵穴に一発で薬がはまったようです。

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