私の大好きな漢方薬シリーズ6 抑肝散
2025.11.03
抑肝散(よくかんさん)は元々子どもの夜泣きやひきつけの薬として明の時代に中国で作られました。日本では江戸時代に成人にも使われるようになり、漢方医の目黒道琢はお腹の左側が張っていて怒りの感情がある人によく効くと記しています。

抑肝散は怒りやイライラを鎮めて気分を楽にしてくれる薬で、保険病名は小児の夜泣き、神経症、不眠症となっています。最近では認知症の方の幻覚妄想や怒りっぽさなど物忘れ以外の周辺症状にも広く使われています。認知症のうちアルツハイマー型の次に多いレビー小体型認知症の幻覚には特に効果が高く、当院でも抑肝散を第一選択としています。この薬には抗精神病薬のような副作用(過鎮静、傾眠、歩行障害など)がないことが最大の利点です。
認知症の方が怒りっぽい時、介護しているご家族もストレスが溜まりイライラしてしまいます。このような場合にはご家族にも抑肝散を飲んでいただくことがあります。
最近の研究では、抑肝散はストレスレベルの調整に関与しているオキシトシンの分泌を促進することがわかっており、このために神経の高ぶりを抑えて睡眠の質を上げてくれると考えられています。
現代はストレス社会です。自分でも無意識のうちにイライラした感情を内にため込んでしまい、結果様々な心身症的な症状として現れることがよくあります。内に秘めた怒りは痛みとして現れることが多く、抑肝散はこのような痛みに対してもときに劇的な効果を発揮します。また難治性の慢性の痛み、例えば帯状疱疹後神経痛などにも奏功することがあります。
これらの症状に抑肝散が効くことを発見したのは日本の漢方医たちです。中国で生まれた子供の夜泣きの薬がこれだけ成人に広く応用できるとは何とも驚くべきことだと思います。
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