もしかして認知症? 家族が知っておきたい初期症状と治療法
2025.09.29
地域で増える認知症患者とその背景
こんにちは、院長の清水です。
私が当院の院長に就いたのは2007年のこと。その後20年近くこの地域の診療に取り組んでいますが、その間に感じている大きな変化は「超高齢化」です。
当院のある長野市信州新町はもともと高齢者が多い地区でしたが、ここ5〜10年でさらに著しく高齢化が進んでいます。2025年現在の信州新町地区の65歳以上の人の割合は55.4%で、超高齢化に拍車がかかっています。
それに伴い認知症の患者さんが年々増加しており、認知症診療のニーズが高まっています。

私が認知症治療に取り組むようになったきっかけ
私の専門は消化器内科で、当院で診療を行うようになるまでは、認知症について限られた知識しかありませんでした。今後さらに増える認知症患者さんに対して、少しでも力になりたい。そんな思いで、本格的に認知症診療に取り組むようになりました。
当初は、認知症疾患の診療ガイドラインに基づいて薬を処方していましたが、既存の認知症の薬の効果は感じられず、かえって副作用で症状が悪化することすらありました。目の前の認知症患者さんを改善に導けないもどかしさや無力感から、有効な治療法を模索する日々。その中で出会ったのが、「コウノメソッド」です。
コウノメソッドは、認知症を治療する対処療法・薬物療法マニュアルで、当院では2012年から、この治療法を取り入れています。
「コウノメソッド」とは?
コウノメソッドは、認知症専門医の河野和彦先生が2007年に提唱し一般公開したもので、その特徴は以下の点にあります。
・介護者の負担を減らすことに重点を置く治療
・画像診断だけに頼らず臨床症状を重視
・認知症の症状に応じて介護者が薬の量を柔軟に調整
・症状に応じて、認知症の改善に有効とされるサプリメントを活用
一般的に認知症治療と聞くと、記憶障害の改善を想像するかもしれませんが、それだけが治療ではありません。このような中核症状を改善することは難しいですが、周辺症状の改善にはコウノメソッドで効果が期待できます。
抑うつや妄想、徘徊、不眠、暴力などの周辺症状を改善することで、患者さんだけでなく、介護者の負担が大きく軽減されるのです。
認知症の種類とそれぞれの特徴
認知症と聞くと、「アルツハイマー型認知症」を思い浮かべる方が多いと思いますが、大きく分けて次の4つのタイプがあります。
①アルツハイマー型認知症
認知症の原因として最も多いのがこのタイプで、全体の60~70%を占めます。記憶障害から始まり、徐々に判断力や理解力が低下していくのが特徴です。
②レビー小体型認知症
アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症で、幻視や歩行障害、大きな寝言などの症状が特徴です。意識障害のために認知機能は良いときと悪いときが波のように変化します。
③血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で発症。症状がまだら状に進行するのが特徴で、障害が起きた脳の部位によっても症状が異なります。
④前頭側頭型認知症(ピック病など)
40~60代と比較的若い世代に発症することが多いタイプです。初期には物忘れは目立ちませんが、前頭葉の機能低下により、情緒障害や異常行動、自制力低下などの症状が現れます。
認知症の初期症状とは? 早期発見のポイント
認知症の初期には、記憶力や判断力の低下、感情や行動の変化などが少しずつ現れます。加齢による物忘れとは異なり、「体験そのものを忘れる」ことが特徴です。本人に自覚がないことも多く、周囲の人の気づきが早期発見のカギになります。
以下のような症状が見られたら、できるだけ早く医療機関を受診することをおすすめします。
具体的な初期症状の例
・同じ話を何度も繰り返す
・約束や予定を忘れる
・買い物で同じ物を何度も購入する
・日付や曜日がわからなくなる
・慣れた道で迷子になる
・会話の内容が理解できない
・趣味や活動への関心が薄れる
・怒りっぽくなる、感情が不安定になる
認知症の診断方法・当院での検査
先述した通り、認知症にはさまざまなタイプがあり、それぞれに診断基準が異なります。しかし、これらの基準は専門的で複雑なため、正確な判断を下すことが難しいケースも少なくありません。
総合病院などでは、一般的に認知症の診断にMRIや脳血流シンチグラフィなどの画像を用います。しかしながら、画像診断にはレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症において誤診が生じやすいという課題があります。画像所見と臨床症状が一致しないことも多く、診断の精度に限界があるのが実情です。
一方、コウノメソッドでは、診断を簡易化・体系化した独自の評価ツール(レビースコアとピックスコア)を導入しており、画像診断を補助的に用いることで、より正確な診断が可能になります。
レビースコア・ピックスコアによる診断支援
・レビースコア:幻視、妄想、安静時振戦などの症状を点数化し、レビー小体型認知症の可能性を評価。問診は主にご家族から行い、画像検査なしでも診断が可能。
・ピックスコア:反社会的行動、食行動異常、態度の変化などをもとに、前頭側頭型認知症を評価。診察時の態度や言語理解の異常もスコア化され、意味性認知症や語義失語の判別にも有効。
家族の気づきが改善への第一歩
画像診断で、万が一、誤診されてしまうと、誤った薬を服用し続けることになります。すると、これまで以上に攻撃的になったり、生気を失ったりと、さらに症状が悪化してしまう恐れがあるのです。
当院は長野県内で唯一のコウノメソッドの公開実践医として、認知症の正確な診断と治療で、患者さんと介護者さんが穏やかに日常を過ごせることを目指しています。
画一的な処方は行わず、副作用を考慮しながら、認知症患者さんの症状に応じて、最小有効量を目安に調整することを基本としています。
また、米ぬか由来で強い抗酸化作用を持つフェルラ酸や、血流改善作用を持つルンブロキナーゼなどのサプリメントを併用し、科学的知見に基づいた補助療法も取り入れることで、認知症の改善に役立てています。
本人の物忘れや異変に気づくのは、たいていの場合がご家族です。早期の受診と適切な治療が、認知症の改善につながります。「最近、家族の様子がおかしい」と不安のある方は、まずは当院にご相談ください。ご本人とご家族の安心のために、一緒に治療に取り組みましょう。
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