「あれ?」と思うことが増えたら。認知症とてんかんの初期症状
2025.11.17
こんにちは、更水医院の清水です。
ご家族やご自身のことで、「最近、なんだかおかしいな」と感じる不安を抱えていらっしゃいませんか。
この記事の目次
●認知症について:「ただの物忘れ」と決めつけないで
●てんかんについて:「倒れる」だけが発作ではありません
●詳しい問診による「見極め」が重要です
●こんな症状も「てんかん」かもしれません
●治療方針について
●ひとりで悩まず、まずはご相談ください
「年のせいかな」と見過ごされがちな「物忘れ」や、一瞬「ボーッとする」ような変化。それらはもしかしたら、認知症やてんかんといった、脳の病気のはじまりのサインかもしれません。
これらは、どちらも脳の働きに関わる病気ですが、多くの方に誤解されている側面もあります。「認知症=何もわからなくなる」「てんかん=子どもが倒れる病気」といったイメージが先行し、受診をためらってしまうケースも少なくありません。
大切なのは、その「あれ?」という小さな違和感を放置せず、認知症やてんかんに詳しい医師に相談することです。
認知症について:「ただの物忘れ」と決めつけないで
認知症は、単なる「物忘れ」とは異なります。
●加齢による物忘れ:体験したことの一部を忘れる(例:「昨日の夕飯、何食べたっけ?」)
●認知症による物忘れ:体験したこと自体を忘れる(例:「夕飯を食べたこと」自体を覚えていない)
加齢による物忘れは、日常生活に大きな支障は出にくいものです。しかし認知症は、記憶障害だけでなく、
●段取りが組めなくなる(例:料理の手順がわからなくなった)
●場所や時間がわからなくなる(例:慣れた道で迷う)
●人柄が変わったように見える(例:穏やかだった人が怒りっぽくなった)
といった症状が現れます。
「年のせい」と片付けてしまうと、適切な対応が遅れてしまうことがあります。ご家族が「あれ?」と感じたら、それは大切な受診のサインです。
てんかんについて:「倒れる」だけが発作ではありません
「てんかん」と聞くと、突然バタンと倒れて全身をけいれんさせる発作を想像する方がほとんどだと思います。しかし、実はてんかん発作の形は様々です。特に高齢者でみられるてんかんには、「けいれんしない発作」も多くあります。
●意識が途切れる(例:会話の途中で数秒〜数十秒、ボーッと一点を見つめて反応がなくなる)
●無意識の行動(例:口をもぐもぐさせる、手をもぞもぞと動かす)
●感覚の異常(例:いつも同じ変な匂いがする、デジャブ(既視感)を繰り返す)

こうした静かなてんかん発作は、ご本人も気づいていなかったり、周りからも「考え事をしている」「ぼんやりしている」としか見えなかったりします。
こんな症状も「てんかん」かもしれません
ここで、認知症や他の症状と間違われやすい、高齢の方のてんかんの具体的なケースをご紹介します。
ケース1:「物忘れ」や「ボーッとする時間」が増えたAさん
Aさんは最近、家族との会話の途中で急に返事がなくなり、1分ほど一点を見つめてボーッとしていることが増えました。我に返ると、直前の会話を全く覚えていません。また、無意識に口をもぐもぐさせたり、服のボタンをいじったりする仕草も見られました。ご家族は「物忘れがひどくなった」と認知症を心配して受診されましたが、詳しい問診と検査の結果、これはてんかん発作であることがわかりました。
ケース2:脳梗塞の後にけいれんを起こしたBさん
Bさんは数年前に脳梗塞を患いましたが、リハビリを経て日常生活を送っていました。ところがある日突然、片方の手足がガクガクとけいれんする発作を起こしました。これは脳梗塞によって脳がダメージを受けた部分がてんかん発作の原因となった「脳卒中後てんかん」です。高齢発症てんかんの原因として最も多いものの一つです。
ケース3:睡眠中に異常な行動がみられたCさん
Cさんは、夜中に突然起き上がって意味のわからないことを叫んだり、朝方に手足が突っ張るような動きをすることがありました。ご本人は全く覚えていません。ご家族は「認知症のせん妄だろうか」と心配されていました。検査の結果、これも睡眠中や起床時に起こるてんかん発作の一種でした。
このように、高齢になってから初めててんかんを発症することも珍しくありません。物忘れや認知症の症状だと思っていたものが、実は高齢発症てんかんによる症状だった、というケースもあるのです。
丁寧な問診が重要です
認知症もてんかんも、脳の神経細胞の働きに異常が起きるという点では共通しています。症状が似ている場合もあり、正しく診断することが治療の第一歩です。例えば、てんかん発作によって一時的に意識がもうろうとしている状態を、認知症による混乱だと誤解してしまうこともあります。逆もまた然りです。
当院では、認知症とてんかんの鑑別診断において、ご本人やご家族からのお話を丁寧に伺い(問診が一番重要です)、その後必要な検査を行って、その「あれ?」の原因がどこにあるのかを診断します。
治療方針について:コウノメソッドなどを通じたアプローチ
当院では、名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦先生が提唱する認知症診療マニュアル「コウノメソッド」に基づいた診断、治療を行っています。
コウノメソッドは、認知機能を改善することよりも、ご本人やご家族の生活の質(QOL)をいかに維持・向上させるかを重視しています。例えば、規定通りに薬の量をただ増やすのではなく、その方の状態や体質に合わせて、極めて少量の薬を組み合わせたり、米ぬかの成分であるフェルラ酸のサプリメントを積極的に併用することで、副作用を抑えながら症状の安定を図ります。重要なのは、目の前の患者さんにとって今、何が一番必要かを見極めることです。
てんかんの治療においても、ただ発作を抑えるだけでなく、薬の副作用で日中の活動性が落ちてしまわないよう、細やかな調整を心がけています。この点については、診察時にご本人の様子を伺いながら、詳しくご説明させていただきます。
ひとりで悩まず、まずはご相談ください
ご家族やご自身の「少しの変化」に気づいたとき、不安になるのは当然です。
「病院に行くほどではないかも」
「本人にどう切り出せばいいかわからない」
そうやって悩んでいる間にも、症状はゆっくりと進んでしまうかもしれません。更水医院では、そうしたご家族のご不安にも寄り添いながら、ご本人にとって最適なサポートを一緒に考えます。
「最近、物忘れがひどくて」「時々ボーッとしているのが気になって」——。そんな漠然としたご相談でも構いません。まずは一度、あなたの「気になること」を聞かせてください。
よく読まれている記事
劇的に認知症の症状が改善した90代女性
「内視鏡検査はどこまで楽にできるか?」 その1 炭酸ガス(二酸化炭素)のお話
私の大好きな漢方薬シリーズ1 補中益気湯