認知症の急な悪化、薬の調整で劇的に改善した高齢男性の症例

2025.12.16

入院後に認知症悪化と日常生活動作の低下

こんにちは、院長の清水です。
今回はアルツハイマー型認知症の治療中に症状が悪化した80代男性のケースをご紹介します。認知症治療では「薬の副作用」や「薬のバランス」が大きな影響を与えることがあり、適切な調整で症状が劇的に改善することがあります。

 

当院に通院中だった80代のアルツハイマー病の男性が、あるとき高熱で動けなくなり、近くの病院に緊急入院となりました。検査の結果はインフルエンザで、タミフルの治療で解熱したものの、入院中に全裸でポータブルトイレに足を突っ込むなど認知症症状の悪化が見られました。
退院時には立位保持も難しく、著しくADL(日常生活動作)が低下した状態だったため、当院で訪問診療を開始することになりました。ADLは食事や着替え、入浴、排泄などの生活に欠かせない基本的な動作のことで、高齢者や障害者の方の身体能力や日常生活レベルを図るための重要な指標になります。

 

私がこの方を診察すると、一見して無表情で元気がなく、自分からは全く言葉を発しません。右手のふるえがあるため、お箸も左手で持つことが多く、介助でなんとか食べているとのこと。入院中は飲み込みも悪く、むせもあったようです。右肘の動きを確認すると、歯車のようなカクカクした固さを認めました。
以上の症状より「パーキンソン症候群」を合併していると考え、それまでのアルツハイマーのパッチ(貼付剤)を中止して、少量のドパミン製剤(ドパコールL)を開始。嚥下や歩行改善のために、米ぬかエキス(フェルラ酸)サプリメントも併用することにしました。

 

認知症の薬の副作用には注意が必要

翌月の訪問では、この方は見違えるように表情が豊かになり、笑顔で私を迎えてくれました。右手のふるえが止まり、食事も自分で食べられるように。身体の動きも劇的に改善し、一人でトイレまで歩けるようになり、立って排尿できるようになっていました。

 

一般的に高齢になると、脳内の様々な神経伝達物質が減ってきます。アルツハイマーでは神経伝達物質のアセチルコリンが低下していますので、それを増やすための薬(今回の場合はパッチ)を使います。しかし高齢者の場合、同時に意欲や集中力に関わる神経伝達物質「ドパミン」も低下していることが多く、アセチルコリンとドパミンは天秤のようなバランス関係にあります。つまり、アセチルコリンを増やすことで相対的にドパミンが不足して、パーキンソン症候群を起こすことがあるのです。
認知症で使われる薬には少なからず副作用があり、それに気がつかないと大変なことになります。当院では患者さんの症状や身体所見から副作用が出ていないかを常に考え、薬は必要最低限の量を意識して診療しています。ご家族の認知症症状が急に悪化した場合、そこに薬の影響が隠れているかもしれません。

 

「最近、体の動きが悪くなった」「表情が乏しく様子がおかしい」など気になる変化があれば、お気軽に当院にご相談ください。訪問診療も行っておりますので、外来通院が難しい方も安心してご利用いただけます。ご家族の負担を減らしながら、患者さんが穏やかな生活を送れるようサポートいたします。

 

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