介護を楽にするコウノメソッド

認知症

2026.04.10

認知機能の改善よりも大切なこと

私はもともと消化器内科を専門として診療を行ってきました。約20年前、長野市の総合病院から更水医院へと軸足を移し、本格的に地域医療に取り組み始めた際、最も困難に感じたのが認知症患者さんの診療でした。

 

認知症は診断がついても、それを改善する有効な手立てが限られています。アリセプト(ドネペジル)などの既存の治療薬は進行を遅らせる効果はあるものの、症状そのものの改善は期待しにくく、当時の私は患者さんやご家族の期待に応えることは難しいと感じていました。できれば関わりたくない、しかし目の前には多くの患者さんがいる――そんな葛藤の中で出会ったのが「コウノメソッド」でした。

 

コウノメソッドは、名古屋フォレストクリニックの河野和彦先生が提唱する認知症治療の実践的なマニュアルです。その本質を一言で表すなら、「介護者を楽にするための治療」と言えるでしょう。

 

動画で清水院長が解説!【コウノメソッドの3つの柱】

コウノメソッドには三つの重要な柱があります。「家庭天秤法」「介護者保護主義」「サプリメントの活用」です。中でも私が最も重要だと考えているのは、「介護者保護主義」です。認知機能の改善を目指すことも大切ですが、それ以上に、興奮や不穏といった症状を和らげ、患者さんを穏やかな状態に保つことで、介護者の負担を軽減することが重要です。

 

実際、認知症では物忘れといった中核症状よりも、怒りっぽさ、不眠、介護への抵抗といった周辺症状にご家族が苦しむことがほとんどです。これらをいかに改善するかが、日常生活の質を左右します。

 

そのために、日々の様子を最もよく観察しているご家族が薬の調整に関わる「家庭天秤法」を用います。また、副作用を抑えつつ穏やかな改善を目指すために「サプリメントの活用」も取り入れます。

 

アルツハイマー型認知症の改善例

あるとき、当院に高齢女性の認知症患者さんの訪問診療の依頼がありました。数年前から物忘れが始まり、アルツハイマー型認知症と診断され、レミニール(ガランタミン)が処方されていました。しかし症状は徐々に進行し、数カ月前からは落ち着きのなさや入浴拒否が強くなり、通院も困難な状態となっていました。

 

初診時、患者さんは表情が暗く、眉間にしわを寄せ、膝をこすり続ける常同行動がみられました。落ち着きがなく部屋を出入りする行動を繰り返し、採血も強く拒否されました。介護されているご主人は疲弊し、施設入所も検討されている状況でした。私はこの方にはレミニールが過量である可能性が高いと判断し、その日から内服を中止していただきました。

 

1週間後に再訪すると、患者さんは別人のように穏やかな表情となり、笑顔で挨拶をされ、採血にも応じてくださいました。さらに翌日には、数カ月間拒否されていたデイサービスでの入浴ができたとの報告があり、ご主人も大変喜ばれていました。結果として、すぐの施設入所は見送り、ご自宅での生活を継続できることになりました。

 

レミニールやアリセプトといった認知症治療薬を中止・減量することで症状が改善するケースは、決して珍しくありません。これらの薬は興奮を高める作用を持つため、漫然と使用すると過量となり、副作用が出現することがあるためです。しかし、この点はご家族だけでなく、処方している医療者にも十分に認識されていないことがあります。

 

私たちコウノメソッド実践医は、もともとこうした患者さんを救うための「アリセプト減らし隊」として活動を始めました。もちろん、コウノメソッドで使用する薬にも副作用は存在します。しかしそれを十分に理解したうえで、ごく少量から開始し、ご家族の観察のもとで慎重に調整していきます。

 

河野先生の「患者ファースト」「家族ファースト」という理念に共感し、患者さんとご家族に寄り添いながら、どのような方法であっても改善を諦めない――それが私たちの基本姿勢です。
認知症の介護でお困りの方は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。

コラム執筆

更水医院院長 清水慎介

よく読まれている記事

1
漢方薬
2025.10.06

私の大好きな漢方薬シリーズ2 五苓散

2
漢方薬
2025.10.27

私の大好きな漢方薬シリーズ5 呉茱萸湯

3
漢方薬
2025.09.29

私の大好きな漢方薬シリーズ1 補中益気湯