「ピロリ菌を除菌したから、もう安心」は本当?――胃がん検診で知っておきたいこと
2026.08.28
「ピロリ菌は除菌しました。だから、胃がんはもう心配ありませんよね?」
外来で、こうした質問を受けることがあります。
答えは――**「除菌によってリスクは下がりますが、ゼロにはなりません」**です。
ピロリ菌は胃がんの大きなリスク因子の一つです。長期間感染していると、慢性的な胃炎が続き、胃の粘膜が薄くなる「萎縮性胃炎」や、「腸上皮化生」と呼ばれる変化が起こることがあります。
こうした胃粘膜の変化は、胃がんが発生する背景になります。
日本人を対象とした研究では、ピロリ菌感染者の胃がんリスクは未感染者の約5倍と報告されています。また、2025年に発表された日本人の研究でも、ピロリ菌感染または胃粘膜の萎縮がある人は、どちらもない人に比べて胃がんリスクが5.89倍高いことが報告されています。
では、除菌には意味がないのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
日本人を対象とした19件の研究をまとめた解析では、ピロリ菌を除菌した人の胃がん発生リスクは、除菌していない人の0.42倍。つまり、除菌によって胃がんリスクは約58%低下したと考えられます。これは非常に大きな効果です。
ただし、ここで注意したいのが、「ピロリ菌を除菌すること」と「胃が正常な状態に戻ること」は別だということです。
長年の感染によって生じた萎縮性胃炎や腸上皮化生は、除菌したからといってすぐに元の正常な胃に戻るわけではありません。
そのため、除菌後も胃がんのリスクが残る場合があります。
「ピロリ菌陰性」=「一度も感染していない」ではありません
これも重要なポイントです。
現在の検査でピロリ菌が陰性でも、
では、胃がんリスクが異なります。
つまり、胃がん検診では「今、ピロリ菌がいるか」だけでなく、過去の感染歴と現在の胃粘膜の状態を見ることが大切なのです。
除菌後も胃カメラが必要な理由
実際に、ピロリ菌を除菌した後に発見される「除菌後胃がん」もあります。
ある人間ドックの内視鏡検診では、2009~2019年に発見された胃がん289例のうち45例が除菌後胃がんでした。直近4年間では、発見された胃がんの34.2%を除菌後胃がんが占めていたと報告されています。
これは一つの施設での研究なので、日本全体にそのまま当てはめることはできません。
しかし、**「除菌後にも胃がんは発生する」**という事実は知っておく必要があります。
しかも、除菌から10年以上経過してから胃がんが見つかることもあります。
だからこそ、「10年前に除菌したから、もう大丈夫」
とは言えないのです。
胃がん検診は何年に1回?
国が推奨する対策型胃がん検診では、50歳以上を対象に、胃内視鏡検査または胃X線検査を2年に1回受けることが基本です。ただし、ピロリ菌の感染歴がある方では、胃粘膜の状態によって胃がんリスクが高くなるため、より短い間隔での検査が検討されます。
私は、ピロリ菌を除菌したことがある方には、原則として1年に1回の胃内視鏡検査(胃カメラ)をお勧めしています。
特に、
という方では、定期的な内視鏡検査がより重要です。
もちろん、検査間隔は年齢や胃粘膜の状態、過去の内視鏡所見、家族歴などを考慮して個別に判断します。
一方、ピロリ菌に一度も感染したことがなく、胃粘膜にも萎縮などの異常がない方では、胃がんリスクは比較的低いと考えられます。
2026年に発表された日本人約24万8千人を対象としたメタ解析でも、ピロリ菌未感染者の胃がん発生率は、1万人あたり年間1.40例と報告されています。
ただし、リスクが低いからといって、検診が不要という意味ではありません。自治体の検診や人間ドックなどを利用して、定期的に胃の状態を確認しましょう。
症状がある場合は「検診」ではなく「診察」を
胃がん検診は、基本的に症状のない方を対象としています。
次のような症状がある場合は、検診の時期を待たずに医療機関を受診してください。
「除菌して安心」で終わらせない
ピロリ菌の除菌は、胃がん予防のために非常に重要です。
しかし、除菌=胃がんのリスクがゼロ
ではありません。
大切なのは、
という流れです。
胃がんは、早期に発見できれば内視鏡で治療できる場合があります。
だからこそ、「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がないうちに胃をチェックする」。
これが、胃がんから身を守るために大切な考え方です。
「昔、ピロリ菌を除菌したけれど、その後は胃カメラを受けていない」という方は、一度、ご自身の胃粘膜の状態を確認してみてはいかがでしょうか。

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