「酒は百薬の長」は本当なのか?

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2026.09.25

「酒は百薬の長」ということわざがあります。お酒好きな方には心強い言葉ですが、本当にそうなのでしょうか?実は、かつて医学の世界でも「全く飲まない人より、少量のお酒を飲む人の方が長生きする」と考えられていた時代がありました。いわゆる「Jカーブ」です。私自身、医学生の頃にはそのように教わった記憶があります。
ところが近年、大規模な研究が進み、この「常識」が大きく変わってきました。今回は、最新の医学から見えてきた「お酒と健康の本当の関係」についてお話しします。

 

「少し飲む方が健康」は本当だったのか?

以前の研究では、飲酒量と死亡リスクの関係をグラフにすると、少量飲酒者のリスクが最も低く、飲酒量が増えるにつれてリスクが上昇する「J」のような形になることがありました。ところが、ここには大きな落とし穴がありました。

 

「お酒を飲まない人」の中には、もともと飲まない人だけでなく、病気や体調不良をきっかけにお酒をやめた「元飲酒者」も含まれていたのです。当然、この人たちは健康状態が悪い場合があります。そのため、非飲酒者全体の健康状態が実際より悪く見え、相対的に「少し飲んでいる人が健康」に見えていた可能性が指摘されるようになりました。

 

こうした影響をできるだけ取り除いて解析すると、「健康のためにお酒を飲んだ方がよい」と言える根拠はかなり弱くなります。WHO(世界保健機構)も現在、「健康リスクという観点から、安全と言い切れる飲酒量はない」という立場を示しています。つまり、「健康のために毎日少し飲む」は逆効果ということです。ここが、昔と大きく変わったところです。

 

日本でも厚生労働省が2024年に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。ポイントは、お酒を「ビール何本」「日本酒何合」ではなく、純アルコール量(g)で考えることです。これまで国の健康づくりでは、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、1日あたり男性40g以上、女性20g以上がひとつの目安とされてきました。

 

純アルコール20gは、おおよそ

・ビール(5%)500ml

・日本酒 1合

・ワイン グラス2杯弱

・缶チューハイ(7%)350ml

に相当します。つまり男性40gなら、この約2倍です。

 

ただし、ここが大切です。

「男性は40gまで、女性は20gまでなら安全」という意味ではありません。これはあくまで「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」の目安です。病気によっては、少ない飲酒量でもリスクが上がることが分かっています。ですから、「ここまでなら飲んでも大丈夫」という安全ラインではなく、飲むならできるだけ少ない方が健康リスクは小さいと考えるのが現在の基本です。

 

お酒の影響は、病気によっても違います。高血圧や一部のがんなどでは、飲酒量が増えるほどリスクが上昇することが分かっています。特に注意したいのが、乳がんや食道がんなどです。

 

お酒が「脳」に及ぼす影響は?

もう一つ知っておいていただきたいのが、アルコールと脳の関係です。お酒を飲むと「気分が明るくなる」「話が弾む」「大胆になる」という経験をしたことがある方も多いでしょう。一見すると、アルコールによって脳が活発になったように感じます。

 

しかし実際には、むしろ逆です。アルコールには脳の働きを抑える作用があり、比較的早い段階から影響を受けるのが前頭葉です。前頭葉は、感情や衝動をコントロールし、状況を判断して行動を理性で抑える、いわば「脳のブレーキ」の役割をしています。そのブレーキが緩むため、陽気になったり、声が大きくなったり、普段なら言わないことを言ってしまったりするのです。つまり、「お酒を飲むと脳が元気になる」のではなく、「脳のブレーキが効きにくくなっている」と考えると分かりやすいでしょう。

 

さらに飲酒量が増えると、判断力や注意力、反応速度が低下し、記憶にも影響が出てきます。大量に飲んだ翌日に「途中から記憶がない」という、いわゆるブラックアウトも、アルコールによって新しい記憶を作る働きが障害された結果です。

 

そして問題は、こうした影響が「酔っている間だけ」とは限らないことです。長年にわたり多量飲酒を続けると、脳の萎縮や認知機能低下との関連が指摘されており、アルコール関連脳症では、物忘れだけでなく、判断力の低下、意欲の低下、怒りっぽさなどが目立つこともあります。

 

「最近、飲むと人が変わる」「以前より怒りっぽくなった」「同じ話を何度もするようになった」そんな変化があれば、単なる「酒癖」で片づけず、お酒が脳に与えている悪影響を一度考えてみる必要があります。

 

「すぐ顔が赤くなる人」は特に注意

もう一つ、日本人にとって大切なのがお酒に対する体質です。アルコールは体内で「アセトアルデヒド」という物質に変わり、その後さらに分解されます。ところが日本人を含む東アジア人には、このアセトアルデヒドを分解する酵素「ALDH2」の働きが弱い人が少なくありません。

 

「少し飲んだだけで顔が赤くなる」「昔からお酒が弱い」という方は、このタイプの可能性があります。こうした体質の方が飲酒を続けると、食道がんなどのリスクが高くなることが知られています。

 

では、お酒はやめなければいけないのか?

医学的な健康リスクだけを考えれば、お酒は少ないほど有利です。
ただ、私は診察室で全員に「明日から一滴も飲まないでください」と言いたいわけではありません。お酒は人間関係をより深く構築するための潤滑油になったり、人生の節目やお祝いの席に彩りを添えてくれるものでもあります。大切なのは、「体に良いから飲む」のではなく、「リスクがあることを知った上で楽しむ」こと。これが、これからのお酒との付き合い方だと思います。

 

今日からできる「上手な飲み方」

まず、「何杯飲んだか」ではなく、純アルコールを何g飲んだかを意識してみてください。最近は缶の表示にも純アルコール量が書かれている商品が増えています。そして、飲むペースをゆっくりにする。初めの1杯目を30分かけて飲むことで全体の飲酒量を減らすことができると先日NHKの健康番組でも紹介していました。途中で水やお茶を挟む。一週間の中に2日以上「休肝日」を作る。最近はノンアルコール飲料もかなり美味しくなっているので「最初の1杯はビール、2杯目からノンアル」というのも良い方法です。

 

「百薬の長」から「上手に付き合う嗜好品」へ

「酒は百薬の長」という言葉は、お酒好きには何とも魅力的な言葉です。しかし現在の医学から見ると、「健康のためにお酒を飲む」という考え方は、もうおすすめできません。お酒は肝臓だけの問題でもありません。血圧やがん、そして脳にも影響します。だからといって、飲酒を極端に悪く捉える必要もないと私は思います。「体に良いから飲む」のではなく、リスクを知り、純アルコール量を意識して適度に楽しむ。これからは程よい距離感で上手に付き合っていきましょう。

コラム執筆

更水医院院長 清水慎介

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